購入判断シミュレーションを公開しましたが、作った本人が一番引っかかっているのが「金利のピークには何%を入れればいいのか」です。シミュレーターは前提を入れれば答えを返しますが、その前提が現実的かどうかは教えてくれません。

この記事では、変動金利がどう上がると住宅ローンのどこが壊れるのかを先に計算で示し、そのうえで「購入判断のときに想定すべき最悪」がどのあたりかを考えます。計算はすべて同じ条件です。借入4,500万円・35年・元利均等・変動0.9%スタート、返済ルールは日本の標準的な「5年・125%」。数字は当サイトのシミュレーターと同じ計算エンジンで出しています。

その前に、これから出てくる数字がどんな歴史の上にあるのかを1枚で見てください。過去50年の日本の金利です。

政策金利は1990年に6%まで引き上げられ、その後はゼロ近傍の時代がおよそ30年続き、ようやく1%に戻ったのが現在地です。この記事で扱うシナリオは、最悪のものも含めて、すべてこのグラフのどこかに実在した水準です。

5年・125%ルールとは何か

日本の変動金利ローンの多くには、借り手を急変から守る2つのルールがあります。

  • 5年ルール: 金利が動いても、毎月の返済額は5年間据え置き
  • 125%ルール: 5年ごとの見直しでも、新しい返済額は直前の1.25倍まで

守られるのは返済額だけで、金利そのものは毎月適用されています。金利が上がると、据え置かれた返済額の中で利息の取り分が増え、元本の減りが遅くなる。さらに上がって利息が返済額を超えると、超えた分は未払利息として積み残され、最悪の場合、35年後に残債の一括返済を求められます。

元本が減らなくなる境界線

利息が返済額を食い尽くす金利は、計算で正確に出せます。借入4,500万円・返済12.5万円/月なら、境界は次のとおりです。

経過年数ローン残高元本が止まる金利
借りた直後4,500万円3.33%
5年目4,045万円4.63%
10年目3,498万円6.70%
15年目2,906万円10.08%
20年目2,264万円16.17%

見てのとおり、この境界線は毎年上がっていきます。残高が減るほど同じ返済額で耐えられる金利が上がり、5年ごとの改定で返済額の上限も25%ずつ上がるからです。

つまり変動金利ローンがいちばん脆いのは、借りた直後の数年間です。最初の5年間に金利が3.3%を超えると元本が止まりますが、10年生き延びれば6.7%までは止まりません。15年目以降は、日本の歴史上ほぼ出現したことのない水準まで大丈夫になります。

利上げの速度の影響が大きい

では金利5%は危険なのか。答えは「何年かけて5%になるか次第」です。同じ到達点で速度だけ変えて計算しました。

5%への到達速度未払利息(最大)満期残債元本が減らない期間総利息
2年で5%361万円0円16年5,998万円
5年で5%158万円0円11年5,359万円
10年で5%0円0円0年4,247万円
15年で5%0円0円0年3,472万円

10年かけて5%に上がる世界では、未払利息は1円も発生しません。125%ルールは5年ごとに返済額を25%ずつ引き上げられるので、このペースの追随力を超えない上昇なら、ローンの仕組みは壊れないのです。壊すのは、改定が追いつく前の急騰だけです。

ただし表の右端も見てください。10年かけた5%は仕組みこそ壊しませんが、総利息は4,247万円です。金利が1.6%で止まる市場予想シナリオなら総利息は1,346万円なので、その3倍以上を払うことになります。壊れないことと安く済むことは別の話です。

シナリオ別に、家計はどうなるか

ローン単体ではなく家計に接続して、シナリオ別の被害を並べます。世帯は年収650万円(ピーク800万円)・子ども2人・貯金300万円・退職金1,000万円という、このクラスの借入では標準的な設定です(シミュレーターの初期値そのままで、教育費や子の独立後の生活費減も織り込んでいます)。

まず、毎月の返済額が実際にいつ・どう動くのかを見てください。

5年ルールがあるため、返済額はどのシナリオでも5年ごとの階段でしか動きません。金利6%の赤い線では、改定のたびに上限いっぱいの1.25倍ずつ、31年目まで階段が続きます。急騰が起きても最初の5年間は12.5万円のままで、本当の負担は6年目以降に時間差でやってくる——これが5年ルールの姿です。以下の表の「毎月返済」の右側の数字は、この階段の最上段を指しています。

シナリオ毎月返済返済比率ピーク未払利息満期残債
市場予想(2年で1.6%)12.5→14.2万33%0円0円
中央銀行タカ派(5年で2.5%)12.5→16.2万38%0円0円
実例級ショック(3年で4%)12.5→23.7万56%44万円0円
1991年型(2年で6%)12.5→47.7万112%868万円1,438万円
2年で8%12.5→47.7万112%2,345万円5,025万円

2つ、注目してほしい行があります。

まず「3年で4%」。返済は月23.7万円まで上がり、手取りの半分を超えます。この世帯は13年目・48歳で貯金が尽きる計算になりますが、ローンの仕組み自体はぎりぎり壊れません(未払利息44万円、残債ゼロ)。4%は家計の問題であって、ローン構造の問題ではないということです。

次に6%と8%の比較。毎月返済はどちらも47.7万円で同じです。125%ルールの上限に張り付くため、それ以上の金利は返済額に現れなくなります。差が出るのは返済額に現れない部分だけで、満期残債が1,438万円から5,025万円に膨らむ。通帳を見ても気づけない壊れ方をするのが、この領域の怖さです。

で、どこまで想定すべきなのか

数字の壊れ方は分かりました。問題は、どの行が現実的なのかです。距離の近い順に並べます。

1.6%(市場予想)は前提であって最悪ではありません。 2026年8月時点の市場は政策金利1.5%前後での打ち止めを織り込んでいます。これはシミュレーターの初期値であり、検討のスタート地点です。

2.5%は見えている範囲の上限です。 中央銀行が想定より速くタカ派に振れた場合の水準で、インフレ目標2%と整合する中立金利の上限側です。ここまでは最悪シナリオではなく、普通に起こりうる範囲として扱うべきです。

「3年で4%」が、歴史上実在する最悪です。 2022年からの世界的インフレで、米国・英国・豪州・ニュージーランドの中央銀行は、およそ3年で政策金利を4〜5%ポイント引き上げました。同じ規模のインフレショックが日本に来れば、変動金利が4〜5%に乗る展開は空想ではありません。先進国で現実に、しかもつい最近起きたことだからです。

6%は日本自身の過去にあります。ただし条件付きで。 1991年、日本の変動金利は8%台をつけました。ですのでこの水準を空想と切り捨てることはできません。ただし当時は物価も地価も賃金も急騰していた時代です。ここが重要な点で、金利だけが上がって物価と収入が動かない世界は、歴史上ほぼ存在しません。金利は物価の結果だからです。

だからシミュレーターで悲観シナリオを試すときは、金利と物価をセットで動かしてください。金利6%・物価0%のような、金利だけが上がる世界は、最悪シナリオではなく、歴史に存在しない組み合わせです。

おすすめシミュレーション手順

以上を、購入判断シミュレーションでの確認手順に落とします。

  1. 物件と家計を入れる。 検討中の物件ページにある電卓アイコンから開くと、価格・頭金・借入額・同等家賃まで自動で入ります。収入・支出・家族構成を自分の数字に直してください
  2. まず初期設定のまま実行する。 金利は市場予想(2年で1.6%)です。この時点で「途中で家を売ることになります」が出るなら、金利を心配する以前に、その価格が家計に合っていません
  3. 金利シナリオを「3年で4%」に切り替える。 物価は「日銀目標どおり」のまま動かさない。これが実例準拠の最悪シナリオです。ここでも売らずに完済できるなら、その借入は歴史が知っている範囲の金利変動に耐えます
  4. 不合格なら借入額を下げて、3をやり直す。 頭金を積むか、物件の価格帯を下げるかです。3が通る借入額が、あなたの家計の上限だと考えてください

手順の外側で、心得を3つ。

  • 最初の5年は繰上返済より現金を厚く。 境界金利の表が示すとおり、脆いのは序盤だけです。序盤の急騰に効くのは元本を数十万円減らすことではなく、返済額の上昇を受け止める流動性です
  • 6%が頭から離れないなら、変動で悩み続けるのではなく固定を買う。 全期間固定との金利差は、急騰保険の保険料として明示された値段です
  • 8%を入力したくなったら、それはもう住宅ローンの検討ではありません。 その世界で問題になるのは残債ではなく、通貨と雇用です

最後に一つ。変動で借りてすでに数年、金利が上がったのに返済額が変わっていないので安心している——そういう方は多いはずです。これは誤解です。金利が上がっても5年間は毎月の引き落とし額が同じというだけで、その内訳は変わっています。同じ12.5万円のうち利息に消える分が増え、元本に回る分が減り、ローン残高の減りが遅くなっている。つまり負担増はもう始まっていて、引き落とし額に現れるのが5年後というだけです。金利が上がった年は、銀行アプリか返済予定表でローン残高を見てください。減るペースが前年より落ちていたら、それが金利上昇があなたのローンに与えている実害です。