相談の場でいちばん多い質問のひとつが、これです。「日銀が利上げを続けたら、大阪のマンションは下がりますか」。政策金利は今年6月に1.0%になりました。31年ぶりの水準です。変動で借りている方、これから借りる方が不安になるのは当然だと思います。
金利と物件価格は、きれいな相関関係にない
理屈だけなら、答えは電卓で出ます。1億円を35年・元利均等(ボーナス払いなし)で借りると、 月々の返済は金利1%で28万2,286円。金利が2%なら33万1,263円で、 1ポイントの利上げで月の支払いは4万8,977円増えます。 逆に、月28万2,286円という同じ支払い能力の買い手が金利2%で借りられるのは8,522万円。 買い手の予算は14.8%減るのだから、価格も15%下がるはずだ——。
実例を見ます。オーストラリアはローンの主流が変動で、利上げは翌月から全世帯の返済に乗ります。 利上げで住宅ローンの実行金利はおよそ2.5%から6%へ。この計算なら買い手の借入余力は3分の1減り、 価格も3割下がっていいはずでした。 実際の下落は最大9%。しかも1年で反転し、利上げが続くなかで最高値を更新しました。 金利と住宅価格の関係は、この計算のとおりには動きません。
オーストラリアが特殊だったわけでもありません。2022年からの世界同時利上げでは、各国の中央銀行がほぼ同時期に、ほぼ同じ幅の利上げをしました。それなのに、住宅価格は最高値を更新した国と、2割近く下げた国に割れました。しかも、いちばん深く下げたニュージーランドですら最大18%。5ポイント超の利上げで買い手の借入余力は計算上4割前後減ったはずですが、その半分も下がっていません。
この差がどこから来たのかを見ていくと、「金利が上がる=価格が下がる」という単純な図式がいかに雑かが分かります。順に見ていきます。
同じ利上げで、結果は割れた
2021〜23年の利上げ幅と、住宅価格がピークからどれだけ下げたか(名目)を並べます。
| 国 | ローンの主流 | 利上げ幅 | 最大下落率 | その後 |
|---|---|---|---|---|
| ニュージーランド | 1〜2年固定 | +5.25pt | 約▲18% | 底ばい |
| カナダ | 5年固定 | +4.75pt | 約▲15% | 足踏み |
| スウェーデン | 変動 | +4.0pt | 約▲15% | 利下げ後に持ち直し |
| ドイツ | 10年超固定 | +4.5pt | 約▲10% | 取引が急減したまま |
| オーストラリア | 変動 | +4.25pt | 約▲9% | 反転して最高値更新 |
| イギリス | 2〜5年固定 | +5.15pt | 約▲5% | ほぼ回復 |
| アメリカ | 30年固定 | +5.25pt | 約▲5% | 最高値圏 |
利上げ幅はどの国も4〜5ポイント台で、大差ありません。それで結果は▲5%から▲18%まで開きました。下落の深さと利上げの幅は、ほとんど関係がなかったのです。
では何が効いたのか。分かれ目は3つありました。
分かれ目1: 変動で借りている国から沈んだ
下落が深かった国を上から見てください。ニュージーランドは1〜2年の固定が主流で、実質的にすぐ金利が更新されます。スウェーデンは新規の6割が3か月ごとに見直される変動。カナダは5年固定が中心で、5年ごとに必ず更新が来ます。
つまり利上げが家計の返済額に直撃する順に、価格が沈みました。返済が増えた世帯の一部が売りに回り、市場に「売らなければならない人」が現れる。価格を速く動かすのは、いつもこの層です。
対照的なのがアメリカです。9割が30年固定。2021年までに2%台で組んだ世帯は、市場金利が7%を超えても返済額が1円も変わりません。売り急ぐ理由がない。
分かれ目2: 固定金利は在庫を消す
アメリカで起きたことは、下落ではなく凍結でした。
2%台のローンを抱えた世帯にとって、住み替えは「2%台の借金を手放して7%で借り直す」ことを意味します。誰もやりません。結果、売り手が市場から消えました。中古住宅の流通量は約30年ぶりの低水準まで落ちています。
買い手にとって住宅取得の負担は40年ぶりの重さになったのに、売り物がそれ以上に消えたので、価格は最高値圏に張り付きました。金利上昇は需要を冷やしますが、固定金利の国では供給を同時に、しかもより強く冷やすのです。
ただしこの状態は永久ではありません。供給が戻った地域——建設が活発なテキサスやフロリダ——では2025年から下げが始まっています。
分かれ目3: 需給は金利に勝つことがある
オーストラリアは変動金利が主流の国です。理屈のうえではスウェーデンと同じ道をたどるはずでした。実際、利上げ開始から9か月で約9%下げています。
ところが2023年に反転し、利上げが続くなかで最高値を更新しました。人口流入が記録的なペースで続き、新築の供給がまったく追いつかなかったからです。金利が需要を冷やす速度より、人が増える速度のほうが速かった。
逆のパターンがドイツです。10年超の長期固定が主流で、売り急ぐ世帯はほとんど出ていません。それでも約10%下げました。金利1%時代の水準まで価格が走りすぎていて、新規の買い手の借入余力が一気に細ったからです。強制売却が出なくても、次の買い手が付いてこられない価格は維持できません。取引件数は急減し、新築の着工も崩れたままです。
順番はいつも同じ——取引量、在庫、価格
7か国を並べて、もうひとつ共通点があります。どの国でも、最初に動いたのは価格ではなく取引量でした。
売り手は値下げより撤退を選びます。希望価格で売れないなら引っ込める。だから名目価格は粘ります。取引が細り、在庫の滞留が延び、それでも売らなければならない人が出てきたところで、初めて価格が動く。変動金利の国はこの最終段階に早く到達し、固定金利の国は手前で止まった——それが▲18%と▲5%の差の正体です。
日本は変動7割の国
ここからが本題です。日本の新規貸出は7割超が変動金利です。構造だけ見れば、下落がいちばん深かったグループに近い。
ただし、決定的に違う点が3つあります。
第一に、上げ幅です。各国は2年足らずで4〜5ポイント上げました。日本はマイナス金利の解除から2年半かけて1.0%。ただし、ここは前提が変わりつつあります。日銀は利上げを続ける構えで、市場では2027年末にかけて政策金利が2%台半ばまで進むという見方が主流になってきました。そこまで行けば上げ幅は約2.6ポイント。スウェーデンが住宅価格を15%落としたときの4ポイントに、無視できない距離まで近づきます。
第二に、実質金利です。物価が2%台で上がるなかの金利1%は、実質ではまだマイナスです。ただしこれも2%台半ばまで上がれば実質プラスに転じます。借りているだけで借金が軽くなっていく時代は、そこで終わります。
第三に、多くの銀行には返済額を5年間据え置く仕組みと、増えても1.25倍までに抑える仕組みがあります。海外で価格を崩した「返済額の直撃」が、日本では制度的に遅く、鈍く届きます。
では、日本はどの国の道を歩くのか
7か国の結果と照らして、ひとつずつ消していきます。
スウェーデンの道——変動金利の家計が直撃を受けて短期間で15%下げる——は、構造は一番似ているのに、たどらないと見ています。理由は2つ。直撃を数年殺す5年ルールと125%ルールがあること。そして家計の借金の重さが違うことです。スウェーデンの家計は可処分所得の190%まで借りたところに4%の変動金利を食らいました。日本は120%前後で、そこに来るのはせいぜい2%台です。売らなければならない世帯が、量として発生しません。
アメリカの道——固定金利の売り手が消えて価格が凍る——も、そのままはたどれません。日本で固定を選んだのは3割で、この層は確かに1%台のローンを抱えて動かなくなります。ただ、市場全体を凍らせるには足りません。7割の変動には、金利上昇がゆっくり全員に届きます。
オーストラリアの道——人が増え続けて金利に勝つ——は、国全体としては論外です。人口が減る国に、この上昇のエンジンはありません。
消去法で残るのがドイツです。共通点が気味が悪いほど多い。ゼロ金利を前提に価格が走りすぎたこと。制度のおかげで強制売却が出にくいこと。経済が長く停滞し、買い手の所得が伸びていないこと。そしてドイツが実際にたどった道は、暴落ではありませんでした。取引が急減し、新築が細り、価格は2年かけて1割下がって、そこで止まる。売り手が破綻して投げるのではなく、買い手の財布が追いつかなくなって、市場が静かに縮む道です。
ただし大阪の都心に限れば、ドイツより粘ると見ています。固定の3割が動かず、新築の供給が細く、市内には人が入り続けている。全国はドイツの道、大阪都心はドイツとアメリカの中間——凍結気味に取引が減りながら、名目価格は簡単には下がらない。これが私の見立てです。
大阪はいま、どの段階にいるのか
当サイトの成約ベースの指数では、2020年末を100として、大阪府全体はいま約124。当サイトが監視している大阪市内中心の586棟では約143です。利上げが始まった2024年春以降も、上昇は止まっていません。
一方で、今年に入って一部のタワーで売り出しが積み上がり始めたことは、前に在庫率の記事で書いたとおりです。海外の順番に当てはめるなら、価格はいちばん最後に動く数字です。先に動くのは取引量と在庫で、大阪はその最初の段階に足を踏み入れたところに見えます。
私の予測
実線が終わるところまでが当サイトの実測で、破線から先が私の予測です。青は大阪府全域のすべての成約から、赤は当サイトが監視するタワー(20階以上)の成約だけから、同じ方法で算出した指数です。
青は大阪府全体です。5年半で約24%、都心のタワーに比べればずっと緩やかに上がってきました。そろそろ頭打ちで、以後は名目維持がやっとの横ばいとみています。強制売却が出ない市場の下げ方はこの程度で、名目の暴落ではなく、物価が上がるぶん実質で目減りしていく形です。
赤の破線は投資型のタワーと高額帯で、ここだけ1年ほど早く動き、1割ほど下がると見ています。金利に最初に反応するのは家計の返済ではなく投資の計算だからです。実績でも、府全体よりはるかに高く駆け上がった赤線だけが今年に入って止まりました。一部のタワーで在庫が膨らんでいるのと合わせて、この線の入口に見えます。下げが1割で止まると見るのは、実需の乗り換えが入るからです。直近2年の大阪市内の成約3,408件で、区・築年・面積・時期を揃えて測ると、タワーの坪単価は板状より26%高い。1割下がれば割高感は半分になり、そのあたりで板状からタワーへの乗り換えが起きる。青の水準が、赤の床として働きます。言い換えると、この予測は26%のタワープレミアムのうち投資マネーが乗せていた10ポイント分が剥がれ、実需が認める16%前後に落ち着く、という見立てです。
グレーの点線は前提に置いた政策金利です。2.5%より手前で利上げが止まれば、破線は2本とも上に外れます。逆に、市内全体の在庫がいまのペースを超えて積み上がっていくようなら、時期は前倒しです。
当サイトが在庫と価格改定を毎日記録しているのは、この予測を検証するためです。
各国の政策金利は、米連邦準備制度理事会・カナダ銀行・スウェーデン国立銀行・欧州中央銀行・豪準備銀行・イングランド銀行・ニュージーランド準備銀行・日本銀行の公表値を四半期に均した概算。住宅価格は各国の代表的な住宅価格指数をもとにした概算。